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ざっく、ざっく、ざっく、


スコップを持つ手が
汗で濡れてきた。

僕は首に掛けていたタオルで
その汗を拭き空を見上げた。


今日は天気が良くて
凄く暖かい。
作業をするには暑いくらいだ。



今日の僕たちの仕事は
アーミーキャンプのアプグレ。


僕とレイコさんは
土を掘る作業をしている。



ざっく、ざっく、ざっく、






ある程度の造成が終わった。
これなら今までよりも
多くのユニットが待機出来そうだ。


チーフから受け取った図面と
実際の寸法を比べてみる。


よし、大丈夫そうだな。


後でレイコさんに
確認して貰おう。








「水平も出てるし寸法も問題ないわ♫
ソウちゃん、測量も上手くなったね」


レイコさんに褒められた僕は
少し照れくさかった。


こうやって一緒に仕事が出来る事が
もしかしたら終わってたかと思うと
今日という1日も
大事にしなくちゃいけない気持ちになる。



レイコさんは明るくて可愛くて
僕の憧れの人。
今まではそんな想いだった。

でも今は
離れたくない、一緒に居たい
もっと知りたい。

そんな想いが強くなってきた。








「次はキャンプの真ん中に
暖を取れる火元を作るわよ」


僕たちはキャンプファイヤーを作る
作業へと入った。

大小さまざまな石を運んできて
図面の通りに並べていく。


「石は僕が運びますので
レイコさんは並べて下さい!」


「あら、無理すると腰を痛めるわよ。
私も運ぶわ」


レイコさんはいつも
自分の事より僕のことを気遣ってくれる。

この優しいところが
とても好きだ。


「大丈夫です!任せて下さい!」


僕はそう宣言すると
石を運び始めた。







材料の石を全て運び終わり
並べる作業も終わりに近づいてきた。

やはりレイコさんの作業はとても丁寧で
まだ素人の僕が見ても
その完成度は素晴らしい出来だった。


「そろそろ完成ね。
日が暮れてきたから急がないと」


夕方になって少し風が出てきた。
昼間の暖かさが嘘のように
冷たい風が僕たちに吹いている。


「さあ、後は火をつけるだけね」


僕は火をつけた木を入れ
火種をくべていった。


レイコさんが積んだ石は
空気の通りが良いのか
炎は大きくなってきた。


火の周りは明るくなり
近くにいると熱いくらいだ。



「せっかくだから少し休憩しましょう」


「良いですね、お湯を沸かして
コーヒーでも飲みましょうか」



僕は転がっていた丸太を
ベンチのように置き
水を入れたヤカンを火にかけた。








「あったまるわ♫
コーヒーを持って来たなんて
ソウちゃん用意周到ね」


僕たちは火の前で
丸太に並んで座り
コーヒーを飲んでいた。


空には満天の星空が
広がっている。

なんだか良い雰囲気だ。


寒そうにしてるレイコさんに
くっついてみたいな。

肩に手を回してみようか?
いや、流石にそれはやりすぎかな。


でも僕とレイコさんの隙間10センチが
とても遠くに感じる。


思い切って寄ってみようか?
この雰囲気ならさりげなく行けるかも…


少しずつ…少しずつ左へ…



「ソウちゃん」


僕はレイコさんに話しかけられ
ハッとし、定位置に戻った。


「ブランケットを持って来てるから
とってくるね」


はあ、ビックリした。
僕が近づいてったのがバレたかと思った。








ブランケットを持って来たレイコさんは
僕の体に掛けてくれた。


暖かく、いい匂いがした。

レイコさんの香りだ。


「僕だけ温ったかくて申し訳ないから
レイコさんも入りなよ」


僕はレイコさんの体にも
ブランケットを掛けた。

さっきと違い
自然な流れでレイコさんと密着した。


よくよく考えるとすごい状況だな。
1枚のブランケットの中で
レイコさんとくっついてるなんて。
夢じゃないよな。



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密着したレイコさんの体は
とても温かかった。

この雰囲気もあるせいか
レイコさんへの想いが膨れ上がり
僕は胸いっぱいの気持ちになってきた。


一人前になったら
レイコさんに告白しようと思ってたけど
もう我慢が出来なくなってきた。


今、気持ちだけでも
伝えたい。


ドキドキ…

ドキドキ…



「ねえ、ソウちゃん」


「この前は私を助けてくれて
ありがとうね」


レイコさんは
僕の方を見つめてそう言った。



「とんでもないです。
レイコさんが施工不良なんて
する訳ないですもん」


「ふふふ。ありがとう♫」


レイコさんは嬉しそうに笑うと
僕の方に、もたれてきた。


やばい。
なんかホントに良い感じだぞ。

僕の気持ちを言いたい!
言うぞ!言うぞ!


ドキドキ…


ドキドキ…




「ソウちゃん、空を見てみて。
西の空に三日月が浮かんでいるわ」


「そ、そうですね」


「さっき日が西に沈んだばかりなのに
もう三日月も沈みそうよね」


レイコさんは空を見上げながら
話し始めた。


「三日月は太陽に近い位置にあるから
夕方から少しの時間で沈んでしまうの」


「へぇ、じゃあ満月は太陽の反対側だから
夕方に東の空から昇り始めるんですね」


「そういう事よ。
満月は夜中の0時にちょうど真上に来るの」


ふーん、なるほどなあ。
月の形によって違うんだあ。

でもレイコさんたら
急にそんな話をするなんて。


告白するタイミングを
逃してしまったじゃないか。



「今の話ね
以前、私がとても好きだった人に
教えてもらったの」


レイコさんは
遠くを見つめながら
そう言った。



そうか。
レイコさんも大人だから
過去に恋愛の1つや2つあっても
おかしくないよな。

そうは分かっちゃいるけど
好きだった人に聞いた話を
今でも覚えているなんて
少し焼きもちしちゃう。


今でもその人の事を
忘れられないとかあるのかな…




「私ね、次に好きな人が出来たら
この話をしようと思っていたの」



え?


いま何て言っ…



「私ね、ソウちゃんの事が好きだよ」


「れ、レイコさん…
す、好きってどういう事ですか…?」


僕は突然の事で
気が動転してしまった。



「ソウちゃんはいつも作業の前に
現場に向かってお辞儀してるよね。
ソウちゃんの真面目なとこ好きだよ」


「いや、あれは…
別にそんな大した意味じゃないですよ」


「前回の事で思ったの。
ソウちゃんと離ればなれになりたくないって」


レイコさんの表情は
少し照れた様子だけど
僕をからかっている感じでは無かった。


動転していた僕の気持ちは
少しおさまり
嬉しさが込み上げてきた。


まさかレイコさんが
僕のことを好きと言ってくれるなんて。


僕も、僕も
レイコさんに気持ちを伝えないと!



「レイコさん、僕もレイコさんの…」



こう言いかけた瞬間、
目の前が真っ白になり
意識が遠のいていく感じがした…











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